☆第2回☆
☆「世界漫画愛読者大賞」最終エントリー作品☆
◎エントリーNo.3 『摩虎羅』(作:茜色雲丸/画:KU・SA・KA・BE)
今週のエントリー作家さんは作画分業制の2人組。共に35歳という茜色雲丸さんとKU・SA・KA・BEさんのコンビです。
「バンチ」に掲載されたインタビューによると、原作担当の茜色さんはゲームのシナリオライターで、マンガ担当のKU・SA・KA・BEさんは現役のマンガ家兼アシスタントとのこと。そしてコンビ結成は10年前。とある雑誌の企画モノ作品を描いたのがきっかけであるそうですが、それ以後は作品を発表する機会に恵まれて来なかったようですね。
何だか、前回の特徴(埋もれた新人マンガ家復活戦)と今回の特徴(別分野からの脱サラ挑戦)を微妙に合わせたようなお2人の経歴が興味深いですね(笑)。
──さて、では作品のレビューの方へ。
この作品については、先週のゼミの終わりの方で「これは“『エンカウンター』的な作品”だ」…みたいな事を話したと思うんですが、ここでそれはどういう意味なのかを、もう一度お話しておきます。“サードインパクト”組の受講生さんたちには多分話していなかったと思いますので。
この「世界漫画愛読者大賞」や、その前身である「ジャンプ新人海賊杯」では、ある特定のタイプの作品が、いつも上位に入賞して連載を獲得し、漏れなく短期で打ち切られる…という現象が起こっています。
で、その特定のタイプとは、
1.絵の見栄えが良い(パッと見の画力が高い)。
2.サラリと読む感じでは読後感が良い。
3.しかし、よく読みこめば話が破綻している。
……というもの。つまりは読み切りの時は誤魔化せても、連載に突入すると構成力の不足がたちまち露呈して破局を迎えてしまう…ということですね。
そして昨年の「世界漫画愛読者大賞」でも同様のケースがあり、それが先に名前の出た『エンカウンター ~遭遇~』だったわけです。
ではここで、この『エンカウンター』が「愛読者大賞」当時どんな感じだったか、昨年のゼミのレビューからちょっと抜粋してみましょう。
この作品、言い方は悪いですが、読者を雰囲気で誤魔化してしまえば、大賞まで手が届くかもしれません。ただし、今のままで連載に踏み込めば、早かれ遅かれ破綻してしまうでしょう。それが非常に惜しい。
『エヴァ』は、話が破綻する寸前の状態で、まるで北緯38度線で綱渡りをやるようにして、ギリギリ成立した話でした。そんな話に影響を受けて新たなストーリーを作り上げるのは並大抵の覚悟では出来ません。作者の木之花さんには是非、意気込みだけではなく覚悟も持って話作りに挑んでもらいたいと思います。返す返すも惜しい作品でした。再挑戦を待っています。 |
……わはは。キッツイ事言ってますねぇ。全部当たってますけど(笑)。
恥ずかしい話、昨年の「愛読者大賞」レビューはイマイチ冴えないモノが多かったと思うんですが、この『エンカウンター』だけはドンピシャだったような気がします。まぁこんなネガティブな予想が当たったところで何の得にもならないんですけどね(苦笑)。
…とまぁ、こういうタイプの作品の事を『エンカウンター』的と読んでいるわけです。お分かりになったでしょうか?
──ではこの『摩虎羅』のどういったところに問題があったのか…といった話になるわけですが、ここでは2つ具体的な“ストーリーの破綻”ポイントを指摘しておきます。
まず1つ目。ゴブ族のブローカーが、何故弱いはずの人間を試合に出す事にそんなに固執するのか? …といった点です。
このブローカーにとって、人間の摩虎羅を試合に出して負けるという事は、賭け金と摩虎羅の売却代金を二重に損することになるわけで、普通なら「あの女を使うしかないのか」とか思う前に諦めますよね(苦笑)。せめて摩虎羅を叩き売ってでももっと強そうな種族の戦士を雇うはずです。それに「あの女を使うしか──」って言うタイミングは、リザードマンが死んでからですよねぇ、どう考えても。
2つ目。摩虎羅はどうして第1戦の巨神族戦の時から奥の手・インドラの瞳を使わなかったのか? 「水戸黄門」の印籠じゃあるまいし…という話です。
いや、「最初で使ったらお話にならん」という意見出るでしょうが、それは作者と読者の都合であって摩虎羅の都合じゃないわけですよ。いつも駒木がレビューで言っている“キャラの行動の必然性”というヤツです。
……この作品、喩えて言うなら「プロレスやってる」って感じなんですよね。話を盛り上げるためにキャラクターがわざわざ自分から窮地に陥って、そんでもって劇的な展開で逆転すると。
でも、今この作品が発表されたストーリーマンガの世界は、そういうのが一切無い世界です。言うなれば「PRIDE」みたいな真剣勝負・バーリ・トゥードのリングなんですよ。そこでプロレスやられても興醒めなんですよね。プロレスはプロレスのリングでやるから面白いのであって、本当の真剣勝負の場でロープに飛んだり逆さおさえ込みで勝負決まっても「それってどうよ?」…なわけです。
まだこの読み切りでは多少面白さが残っているかも知れませんが、これがこのまま連載になるとまず破綻するか、さもなくば飽きられるでしょう。
以下、駒木のエエカゲンな推測なんですが、この失敗はどうも、原作の茜丸さんがゲームシナリオ畑の人であるところに原因がありそうな気がしています。
といいますのも、ゲームシナリオの世界って、意外とプロレス風味の“暗黙のお約束”が通用する媒体でして、「面白い」と思ってもらえるなら多少シナリオが破綻してても許されるところがあるんですよね。
ですからこの『摩虎羅』、茜丸さんがゲームシナリオを作る感覚でマンガ原作を作ってしまったためにストーリー破綻してしまったのではないかと思うのです。あくまで個人的に思ってるだけですけどね。
さて、とりとめもない話はこれくらいにして評価です。
散々な事を言ってきましたが、一応絵は標準以上ですし、破綻箇所があるとは言えマンガとしては成立していますから、ある程度の点はつけなければならないでしょう。もしも今後シナリオが破綻しないようになれば大化けの要素もあると思ってますしね。まぁ、やや甘めでB-寄りBといったところでしょうか。
では、最後に投票行動の公開です。
・「個別人気投票」…支持しないに投票。(ダメモトで賭けてみたい思いもあるが、少なくとも「愛読者大賞」の看板を背負っての連載はリスクが大きすぎるとの判断。通常のアンケートにも票は入れていません)
・「総合人気投票」と「グランプリ信任投票」でこの作品を支持する事はありません。
……というわけで、以上で今週のゼミを終わります。