電撃オンラインにて、橘正紀監督×梶浦由記さん×湯川敦Pのインタビュー記事を掲載中!『プリンセス・プリンシパル』の誕生秘話、第1話ラストのアンジェの発砲シーンや楽曲作りについて語っていただきました!必読ですよ~!! 橘正紀監督、梶浦由記さん、湯川淳CPに聞くTVアニメ『プリンセス・プリンシパル』誕生秘話 TOKYO MX・KBS京都・サンテレビ・BS11・AT-X・ニコニコ動画・バンダイチャンネルなどで放送&配信中のアニメ『プリンセス・プリンシパル』。そのキーマンたちのインタビューをお届けします。 『プリンセス・プリンシパル』は、19世紀末の架空のロンドンを舞台に、5人の少女たちがスパイ活動を繰り広げる、完全オリジナルのガールズスパイアクションアニメ。 そんな本作がどのような経緯で生まれてきたのかをはじめ、制作の上で注意しているポイントや、作品の魅力について、監督の橘正紀さん。音楽の梶浦由記さん。バンダイビジュアルの湯川淳チーフプロデューサーにお話を伺ってきました。その様子を2回にわたってお届けしていきます。(※インタビュー内は敬称略) 女子高生×スパイ×スチームパンクの三本柱 ──『プリンセス・プリンシパル』は完全新作のオリジナルアニメとしてスタートしましたが、どのような経緯で企画がスタートしたのでしょうか? 湯川:最初に、私とStudio 3Hzの松家さん(※3Hz代表取締役である松家雄一郎氏)、アクタスの丸山さん(※アクタス代表取締役社長である丸山俊平氏)とで「カッコいい女の子の物語を描きたい」という話が持ち上がったのがキッカケです。そこから、どのようにカッコいい女の子を描こうと試行錯誤の末「スパイもので行こう」という結論にいたりました。 スパイものであれば『攻殻機動隊S.A.C』シリーズにも関わっていた橘正紀さんが適任だということで、橘監督とお話をさせていただきました。その後、スパイものとして、エンターテインメントな駆け引きができる脚本を書ける方が必要なので、シリーズ構成を大河内一楼さんにご依頼した、という流れですね。 ──舞台設定を現実のイギリスではなく、19世紀末の東西が分断された“アルビオン王国”という形にしたのは、どのような狙いがあるのでしょうか? 橘:プロデューサーのほうから「エッセンスとして“スチームパンク”を入れるのはどうですか?」という電話があった時に、スチームパンクをやるなら「ヴィクトリア朝のスチームパンクをやりたい」とお返事したんですよ。 大河内さん(シリーズ構成・脚本の大河内一楼氏)からも「監督に明確なビジョンがあるならいいのではないか」と同意してもらったので、産業技術が発展し始めた頃のヴィクトリア朝という19世紀末――おもしろい形の機械などもいっぱいある時代に絞って、様式美も含めたイギリスにしようと決めました。 ──本作の音楽は梶浦さんが担当していますが、どのような狙いで起用したのか教えてください。 湯川:元々あったカッコいい女の子とスパイの二本柱に加えて、もうひとつ柱がほしいと橘監督と話していたんですよ。先ほど、監督からスチームパンクという言葉が上がったように、最終的に3本目の柱がスチームパンクに決まりました。 そこで“女子高生(カッコいい女の子)×スパイ×スチームパンク”の三本柱なら音楽はと考えていったところ、梶浦由記さんしかあり得ない! と満場一致で決まりました。監督も「梶浦さんがいいですね。テンションが上がります」とおっしゃっていたのを覚えています。 ──梶浦さんにお聞きします。本作に起用された時に、どのような感想を抱きましたか? 梶浦:お話をいただいた時は脚本などもなく、本当に3枚くらいのプロットくらいしかなかったのですが、その時点でも「コレは、絶対いい!」という話を音楽のプロデューサーとしていたくらい、本当にひと目ぼれでした。 絶対に担当したいと思っていたのですが、あとから脚本を頂いて読んだら本当におもしろくて、ものすごい勢いで読んでしまったんですよ。それで、コレはカッコいい音楽をつけなければいけないなと考えていました。 ──音楽作りについては、本作の“19世紀”の“スパイアクション”という設定は、大きく影響しているのでしょうか? 梶浦:まず、19世紀であってもロンドン色はすごく強いと思っていたので、打ち合わせをさせていただいた時に「大英帝国らしさを音楽に出しますか?」とお話をしました。ちょっと中性的で少し前のクラシックのような重厚さ――いわゆるロンドンっぽさを前面に打ち出したほうがいいのか、そうではなく、スパイものに寄せたほうがいいのかとおうかがいしたところ、監督から「スパイものに寄せたほうがいいです」と言われました。 大英帝国的な音楽じゃなくていいと言われたので、それならスパイと、そしてカッコいい女の子のほうに寄せよう、と考えました。脚本を読ませていただいた時に思ったのですが、本作は、いわゆる“勝ちパターンの存在するアクション”ではないんですよ。勧善懲悪でわかりやすさと爽快感を備えたアクションではなく、かと言って全編にわたって悲壮感たっぷりの、重厚な戦いを描いた作品でもありません。軽妙でセリフ回しもウィットに富んでいるので、曲作りも少し難しいなと感じていました。 あまり重くすると悲壮感が漂いすぎてしまいますし、ちょっとした虚脱感というかむなしさもほしいですし、それでいてどこまで軽くするのかが課題でした。脚本を読んでいると非常にクールなんですよ。そのクールさになるべく寄せて作ってみました。だから、いつも自分が作っている曲とは少し違う方向に寄ったかな、と思っています。 ──そうなんですね。第1話を見て、確かに今までの梶浦さんらしさを感じない曲もありました。逆にアクションシーン、例えば車が走るシーンの曲などには、梶浦さんらしさを感じて、「きたっ!」とテンションが上がったりもしました。 梶浦:自分では変えたつもりですが、いつもそう言われちゃうんですよ(笑)。私は脚本を読ませていただいたり、背景の絵などを見ながら曲を作ることが多いのですが、本作は背景の絵が用意されていてすごく参考になりました。 ただ、それでも実際に作品を見ないと予測でしかない部分もあるので、音楽が作品に合うかどうかは最終的に第1話や第2話を見てみないとわかりません。自分では「コレだ!」と思って作っているのですが、いつも第1話を見るまではドキドキしています。 ──今回は音楽を作るうえでイメージを膨らませるにあたり、設定画がだいぶ役に立ったと。 梶浦:はい。と言っても、一番重要なのは脚本ですね。私は曲作りに迷うと、脚本に書かれているセリフを声に出して読むんですよ。どのくらいの速度でセリフが読まれるのか? どのくらいの温度感で読まれるのか? そういった部分を理解しようと声に出すのですが、もし、人に聞かれたら恥ずかしくて海に走って行きたくなるかも……(笑)。そんな感じで、家では脚本や背景の設定画などを見て、なんとなくこのくらいの音楽が合うのではないかと想定しながら作っています。 ──曲について、橘監督にもお聞きしたいのですが、梶浦さんに音楽をお願いするにあたって、特に注意してもらったポイントなどはありますか? 橘:最初にお願いする時点で「梶浦さんのやりたいようにお願いします」とお任せしていたのですが、大英帝国感はあまり意識しないでくださいとはお伝えしました。物語の核になる部分が何かと言えば“主人公のアンジェとプリンセスが特殊な関係である”ことなんです。作品世界の中でも、この2人の絆は特に強く、その2人がどうなっていくのかを描いた物語なので、そうした部分を立てて欲しいというお話をしました。 湯川:音響監督の岩浪さん(岩波美和氏)があげて来られた音楽のメニューの中でも、アンジェに関する項目はひときわ多かったんですよ。それを見て、「やはり、岩浪さんはわかっていらっしゃる」と思いました。本作ではキャラクターに寄せていくほうがいいと考えていたので、音楽もそういう方向性で作っていただけて本当によかったです。 梶浦:そう。本当に“アンジェの物語”なんですよね。 ──ひとつひとつの楽曲自体は、具体的にどのようなやり取りを経て完成していったのでしょうか? 梶浦:まず最初にPV用の曲を作って、そこから自分が思う“軽妙なスパイっぽさ”のある、ちょっとクールな曲を作っていった流れです。 湯川:最初に聞いた時点で100点どころか120点のものができてきたので、これはハードルを上げられたと思いました(笑)。あの曲を聞いた瞬間、「梶浦さんにお願いして本当によかった!」と思いました。 橘:一番最初の作品発表の時に出したPVがあるのですが、その時の曲が最初に上げていただいた曲です。あれが上がってきた時のテンションの上がりっぷりと言ったら、本作の制作においては現在トップクラスのものでしたね。 ──実際に第1話を見て、音楽を聴けば、視聴者の方もそう思うのではないでしょうか。話は代わりますが、本作は“スパイアクション”がテーマのひとつになっています。皆さんにとってスパイアクションには、どのようなイメージがありますか? 橘:エンターテインメント作品だと、やはり『ミッションインポッシブル』や『007』です。本作では設定考証で白土晴一さんにも入ってもらっているのですが、彼からは『裏切りのサーカス』を薦められました。 ただ、『裏切りのサーカス』はリアルすぎたので、本作の参考にするには厳しい部分もありました。結局のところ、スパイは目立たないようにするのが一番マストなのですが、そうすると物語にならないんですよ。 目指すべき方向性については「どちらかと言えば『ミッションインポッシブル』や『007』のような、スパイのケレンミがあったほうがいいね」との結論に落ち着きました。だから、こちらが目指した“スパイアクション”としては、エンターテインメントに寄せた形になっています。 湯川:スパイと言えば、駆け引きや理知的なアクションがすぐ頭に浮かびます。ただ普通になぐって敵を倒すのではなく、戦いの中に駆け引きの要素があったり、頭を使ってひと工夫していたりする。そういう要素があるのが“スパイアクション”だと話し合いました。 梶浦:私も『007』ですね。ただ、私はあまり映画を見ないほうなので申し訳ないのですが……。やっぱり、エンターテインメント性があって、スパイというキャラクターをクールにかっこよく見せようという部分を『007』には感じるんですよ。リアルではないけれど、カッコいいスパイというところで、本作にも“『007』の女の子版”みたいなところはあるのかなと個人的に思っています。 橘:脚本を進めている途中で黒星紅白さんにキャラクターデザインをお願いしたのですが、だいたい放映している今の絵と同じものが上がってきたんですよ。制服を着ていて、スパイの服を着ているのですが、この服だと忍んで活動するのは無理だろうな、と(笑)。この形のこの服でカッコよくアクションをできる世界観を作ろう――目指したのは、そこです。 湯川:Twitterなどでも評判がよくて、映像などが素晴らしいと書いていただけてホッとしました。会場にいたのですが、関係者だと気づかれると「梶浦さんのサントラは出るのですか?」と2、3人に詰め寄られたりもしました(笑)。 梶浦:私も、Twitterなどで「サントラは出るんですか?」とよく言われますね。ちゃんと出す方向で動いていますが、今はサウンドトラックが出ないアニメなども多いので、皆さん心配だったようです。 橘:私は当日まで先行上映会に行く予定はなかったんですよ。制作スタジオにずっとこもっていて、行くヒマがあったらレイアウトのチェックをしているような状態でした。たまたまチェックの隙間ができたので、テンションを上げるためにもワガママを言ってバルト9に行ったのですが、皆さんとてもマナーがよくて静かに見るので、狙ったシーンでもリアクションがないので、ちょっと不安になったりしましたね(笑)。 物語のリテラシーを高くしようと本読みの時に言いながら作っていたくらい、情報量が多くて複雑な物語なのですが、伝わっているのか喜んでいるのか全然わからなくて……。 湯川:「何かスゴイものが始まった」という感じは、ちゃんと伝わっていたと思いますよ。 ──梶浦さんは、第1話をご覧になって特に印象的だったシーンや、気になる部分はありましたか? 梶浦:全部です! 事前に脚本を読んでいたので、どこでどうなるのかは知っていたのですが、絵が付くと説得力が増しますね。最初はアンジェ派だったのですが、動いているのを見るとドロシーもやっぱりいいな、なんて……。そういう見方もしていました(笑)。 第1話は、なんと言ってもアクションが素晴らしいですし、絵も色合いがいいんですよ。少し暗めで、霧がかかっている感じがする。全体の色彩がカッコよくてスキがないんです。もっとも、脚本を読んだ時から、すごい第1話だとは思っていました。彼女たちの性格も伝わってくるし、全体の雰囲気も伝わってくるし、最後の落としどころで、この世界観は割とシビアな方向に行くこともわかるようになっています。 だけど、すごくキュートな少女たちのやり取りも入っていて、全体的な世界観がちゃんと第1話に詰め込まれているんですよね。『プリンセス・プリンシパル』というものがズバッと伝わってくる第1話だと改めて思いました。 ──ベタ褒めですね。確かに、第1話は特に見どころがありましたが、その中でもお気に入りのシーンを教えてください。 梶浦:オープニングですね。最初に見せていただいた時は絵コンテだったのですが、絵コンテの段階でも曲がよくてテンションが上がっていたのに、完成した映像がカッコよくて、アレだけでご飯が3杯は食べられるくらいでした。 オープニングは、作品の入口じゃないですか。曲も映像も含め、現実を忘れてその世界に飛び込むための扉だと思っているのですが、本作では曲も映像もその役割をカッコよく果たしていて、すごく秀逸なオープニングだと思います。 橘:実は、先行上映ではあえてオープニングを入れませんでした。そこは本編を見た時に驚いて欲しいと思っていたからなんですよ。ちなみに、本作のオープニングは『ジョーカー・ゲーム』の野村監督にお願いしてコンテ演出を担当してもらっています。『ジョーカー・ゲーム』はリアルなスパイものでしたが、こちらは同じスパイものでもちょっと違うテイストで、すごくいいものに仕上げていただきました。 湯川:第1話で言えば、最後にアンジェが「いいえ……いいえ……」と言いながら銃を撃つシーンがあるじゃないですか。あそこが梶浦さんの音楽と相まって、本当にいいシーンになったんですよ。素晴らしいと思いながら、家で何回も見直してしまいました。 橘:最初に、大河内さんとプロデューサーを交えて「どこを泣きどころにしよう」「ビター加減をどこに持っていこう」という話をしたんですよ。エリックの落としどころをどうするか結構悩んだのですが、最終的に「ビターに攻めよう」と。落としどころを決めてからは、スッと方向性が決まった感じでした。 梶浦:あのシーンは、どうなるのかずっと気になっていたのですが、たぶん第1話を見ていた方もそう思っていたのではないでしょうか。撃つまでに、意外と間を置かないですよね。すぐ撃っちゃう。 橘:そこは、タメを作って見得切りのようになってしまうと「来るぞ、来るぞ」という感じを持たせてしまうので、意外性で行かないとダメだと思っていたんですよ。物語を作る時はキャラクターの心情を掘り下げて作るのですが、あそこで溜めてしまうと、アンジェが撃つのをためらってしまうかもと思ったんですよ。 考える前に撃たないと、わずかな期間とはいえ一緒にいた人だし殺せなくなってしまう。ためらってしまう。だからこそ、彼女はきっとすぐに撃つはずなんです。そこで、皆さんが驚いてくれれば、それはそれでうれしいところですね。 ──そういう意図があったのですね。梶浦さんは、第1話での音楽の使い方についてはどう思われましたか? 梶浦:第1話を拝見したら作品のテンポ感が早く、曲のテンポ感も作品の世界観に合っていてきちんと機能していることがわかったのでホッとしているところです。 湯川:最初に完成品を見た時に、これは「曲から先行して作ったようなアニメだな」と思ったくらいですから、梶浦さんから見て機能しているように見えているようでしたら、こちらも安心できます。 ──では、最後に第1話を見てくれた視聴者の方や、これから見ようと考えているファンの方たちに向けて、ひと言ずつお願いします。 湯川:第1話は少しビターなテイストだったのですが、楽しい回や主要キャラクターをフィーチャーした回もあります。すごくバラエティに富んだ1クールになっていますので、そういったところもチェックして、最終話まで見ていただけるとありがたいですね。 梶浦:『プリンセス・プリンシパル』は第1話第1話に無駄がなくて本当におもしろいですし、極上の短編小説を連作で載せているような物語の形式になっているんですよ。でも、その後ろではすごく大きな物語も流れていて、絶対に飽きないと思います。第1話を見た方はもう視聴をやめられなくなっていると思いますが、ぜひ、最後までご覧になっていただきたいです。 橘:今まさに、がんばって作っている最中なのですが、第1話で期待していただいた方に2話以降も最終回まで極上の作品を届けられるようにがんばっていきたいと思っています。最後まで期待してみていただけるとうれしいです。 インタビュー後編へ続く。 |