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「子供向けだからこそ、綺麗事が本気で言える」『王様戦隊キングオージャー』脚本・高野水登が考える特撮作品のメッセージ性【連載・てれびのスキマ「テレビの冒険者たち」】
テレビ朝日系で放送中の「スーパー戦隊」シリーズ『王様戦隊キングオージャー』が2024年2月25日の放送で最終回となる。戦隊メンバー全員が王国の「王様」で、仲間同士でも本心を明かさない政治劇の側面を持った作品だ。
脚本を担当した高野水登さんに、性別や年齢を問わず幅広い視聴者に届けるために考えていたことを訊いた。
聞き手は、『1989年のテレビっ子』『芸能界誕生』などの著書があるてれびのスキマ氏。テレビ番組の制作者にインタビューを行なうシリーズの第10回【前後編の後編。前編からつづく。文中一部敬称略】。
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中村獅童がテレビ版の出演も熱望
放送されるたびに毎回番組に関連したワードがSNSのトレンドに入る『王様戦隊キングオージャー』。第1部の佳境にあたる7月末に公開された映画『王様戦隊キングオージャー アドベンチャー・ヘブン』はわずか30分強という長さにもかかわらず、その濃密な物語とクオリティで絶賛された。
「スーパー戦隊」シリーズの映画版は別の脚本家が手掛けることが少なくないが、『キングオージャー』の場合は、本編同様、高野水登が執筆した。ゲストとして中村獅童や雛形あきこ、佐倉綾音らが出演。特に「スーパー戦隊」名物である名乗りを上げる演出は歌舞伎の演目「白浪五人男」が元ネタとあって、歌舞伎界から中村獅童が“始まりの王”であるシュゴッダム初代国王・ライニオールを演じたのは大きな意味があった。
「最高でしたね! 中村獅童さんのおかげで、作品としての重みが出たと思います。衣装の打ち合わせのときもご自身からアイデアを出してくださって。あの豪華な衣装、見るからにでっかくて重いんですよ。だから重い衣装をスタッフが気遣ってたんですが『いや、いつももっと重いの着ているから』って。『おお、カッコいい! 格が違う」と思いましたね。
やっぱり僕も元が歌舞伎だと知って、なぜ名乗るのか、みたいなところも『キングオージャー』では入れたつもりで。その元ネタの世界から来てくださって。しかも、決して大仰な芝居は全くされずに、小さな所作ひとつで威厳が出る。ただただ圧倒されて、中村さんに話しかけられなかったのだけが本当に心残りです(笑)」
中村獅童は自ら「テレビ版もどうなんですか監督!」と公開初日の舞台挨拶で言っていたように、今度はテレビ本編にも出演。『キングオージャー』には出るものを前のめりにする魅力があるに違いない。佐倉綾音や雛形あきこも含め映画版ゲストが本編にも総出演する異例の展開を見せた。「宇蟲五道化(うちゅうごどうけ)」のひとり、グローディ役には天野浩成が起用され、雛形と天野の夫婦共演を果たしたことも話題に。天野は、雛形の『キングオージャー』出演に誰よりも喜び、熱烈にSNSで発信していた。
「あれはもうやらなきゃダメだろって(笑)。大森さんが『グローディ役、天野さんはどうですか?』って言われて、『それしかない!』って。あんなにSNSで応援してくださったので、決まったときは嬉しかったですね。あの2人のセリフが書けたのは本当に良かったですね。『ただの夫婦の会話じゃねえか』って言われたら本望だなと思いながら書きました」
高野水登は「セリフの人」
プロデューサーの大森敬仁は高野を「セリフの人」と評す。実際、高野の書くセリフは印象的なものが多く、口上なども七五調のリズムでカッコいい。
「僕はセリフから逃げてきた人生だったんですよ。どちらかというと僕は自分を“構成の人”だと思っていたんです。だって、そうじゃなかったら『真犯人フラグ』なんてできないですよ。あれは、難解な大量の伏線をいかに回収するかというパズルみたいなものだったので。
実は戦隊ってセリフの文量がめちゃくちゃ少ないんですよ。通常のドラマの3分の2から半分くらい。アクション尺がある分短い。だから、脚本家の仕事ってすごく限定されるんです。
独自性はプロットやあらすじからは出しにくいので、1行のセリフで出すしかないんです。むしろ、そこができなかったら自分がいなくてもいい。頭のいい人が3人くらいいれば構成はできてしまうけれど、キャラとセリフだけは脚本家にしか書けない。だから、自分を信じて書くしかないんですよ。これはカッコいいはずだって。
大森さんが『セリフの人』って最初に評価してくれたのは、そういう口上とかカッコいいセリフを指していたわけじゃなくて、説明セリフを書かなかったことなんです。特撮番組はどうしても説明セリフが増える宿命があるんですよ。それをいかに説明っぽくなくするかっていうのは、一番意識していましたね」
ジェンダーギャップは悪意で生まれているわけではない
セリフと言えば華麗なキャラクターであるヒメノ(村上愛花)を始めとして、女性キャラがいわゆる“女言葉”をほとんど使わないのも特徴だ。
「自分が女言葉を使う人にリアリティを感じにくいというのが大きくて。こういうのは男の自分が言うと『何言っているんだ』って言われるかもしれないんですけど、今の僕くらいの世代の女性に対する感覚って、そうだと思うんですよ。
ヒメノ様のような気高い人もいるし、リタ(平川結月)のようにジェンダーニュートラルな人もいる。逆にスズメちゃん(加村真美)みたいに、精神的にすごく強いけど誰か大好きな人のお嫁さんになりたい人もいるし、モルフォーニャちゃん(長谷川かすみ)のように、罪人の子供だけど裁判長になれるって証明したい人もいる。僕としてはすごく意識して頑張って書いていると言うより、僕の中の世界がそうなんですよ。だから至極自然なことなんです。
良い悪いを超えた世代間での感覚のギャップってどうしてもあって、悪意とかじゃないんですよね。以前、ある番組を作ったとき、スタッフのほとんどが年上の男性だったんですよ。そしたら、『男の人が若い女の人に教えるって形でいいよね』って、自然な流れで番組の大枠が決まりかけたんです。そこに『女ってバカだから。ハハハ』なんて悪意はないんですよ。でも、男が女に教えるものという意識がついてしまっている。その場にいたディレクターは若かったけど立場もあって何も言えない。僕も若いペーペーだったけど、脚本家って外様で、良くも悪くも“先生”で、違和感を言える立場にあったから、抵抗したんです。
そういう経験もあって、やっぱ自然とそうなっちゃうんだなあと思っていたんですけど、『キングオージャー』のチームは本当にニュートラルで。リタは性別を言わないという設定も自然と受け入れられたんです。世代が変わって価値観が変わってきたんだなってすごく感じて嬉しかったですね。だから、僕一人ががんばって戦ったわけでは全然ないんです」
SNSでは拾うことのできない「子供たちの声」
『キングオージャー』といえば、「貴様ら民は歯車だ!」などと偽悪的な言動をするギラ(酒井大成)、二枚舌なカグラギ(佳久創)、クールで無表情のリタ、「行間を読んでくれ」と微笑むジェラミー(池田匡志)など、仲間同士でも本音や本心を簡単には明かさない、ポリティカルスリラー(政治劇)のような一筋縄ではいかない作劇が特徴的だ。
「子供向け作品だとセリフで伝わることって少ないと思うんですよ。子供の理解度っていう意味ではなくて、未就学児って人が喋っていることに基本興味がない。説明を聞いて納得したいのって大人なんですよ。子供はもっと、楽しいとか悲しいとか気持ちを全身で表現してくれれば、共感してくれる。大人よりも遥かに感受性が豊かで、めっちゃシビア。
子供にもわかるようにと、セリフを増やしちゃうと逆に伝わらないから、むしろセリフはギュッとしました。でも雰囲気だけは、たとえば『今、この人たちはピリッとしているんだ』っていうのが伝わるように構築しました」
放送が中盤を迎えた頃、高野は自身のSNSで「子供たちの声を聞かせてください!」と呼びかけた。反響は凄まじく、リプライだけでも700件以上、300を超えるメールが、しかもその多くは長文で送られてきたという。
「ありがたいことに、それまでSNSで大人が盛り上がってくれたけど、子供の反応だけはわからなかったんですよ。大人の好評に寄りすぎると、本当に見せたい子供を置いていってしまうんじゃないかっていう怖さがあったんです。
聞いてみて一番嬉しかったのは、ブーブークッションに座るくだりが子供にめちゃくちゃ評判が良かったんです。保護者の方からは、『子供から何度も「見せて」と言われて再生させられてます』って(笑)。その感想を受け取った時点で3ヶ月近く前に放送された回だから相当喜んでくれたんだなって。ベタに笑えるシーンは、大人からは『何で入れるんだ』って言われちゃうんですけど、どんなにシリアスな回でも入れようって思いましたね。
民放ドラマでは「夢は必ず叶う」は嘘に感じてしまう
子供向けのドラマだからこそ、高野は「綺麗事が本気で言える」と語る。
「日本も世界全体もなんとなく絶望的な雰囲気だから、これは自分の感覚ですけど、『夢は必ず叶う』とか民放のゴールデン帯のドラマでは口が裂けても言えないんですよ。視聴者の多くは元気になるものを見たいはずなんです。だから本来なら『夢は叶う』とか『恋は必ず実る』とか言ってほしいじゃないですか。でも、言われたとしても、それを信じられるほど世の中は甘くない。一気に嘘くさく感じちゃうと思うんですよ。
見たいのは明るいものなのに、本当に明るいものを見せられると嘘に感じてしまう。これって今後もテレビドラマが戦っていかなきゃいけないことだと思っているんですけど、子供にはそんなことを言う必要はなくて、『未来はあるよ』『世界は変えられるよ』って言える。というか、言わなきゃダメだと思うし。子供のときに見て、それを本気で信じて世界を変えようと思った人が、世界をいい方向に持っていってくれるのだと思うから」
しかし一方で、“厳しさ”もしっかり描かれている。
それをもっとも象徴するのがラクレス(矢野聖人)の描き方だ。前半、ラクレスは国民を犠牲にすることも厭わない暴君として描かれるが、実はそれは宇蟲王を倒すための“芝居”だったことが、42話で遂に明かされる。
だが、最終的には人類を救うためにやった“悪行”もなかったことにせず、王様戦隊は「許さない」という選択を取る。ラクレス自身も裁判で「私は多くの民を自らの意志で犠牲にしてきた。そのおぞましい事実が宇宙を救うという大義が私への情けで正当化されるようなことは未来永劫あってはならない」とハッキリと宣言するのだ。
「そこは迷いながら真剣に考えましたね。死ぬという選択肢もあったんですけど、生きて償うという方を選びました。そこは『王様戦隊』だからできたっていうのもありますかね。王様だからヒーローになっちゃいけない。英雄と王は違う。革命家が王になったら国がめちゃくちゃになったみたいなことが歴史的にもあるじゃないですか。王様とヒーローとの差っていうのは常に念頭に置いていました。
だから、王様たちが意外とドライな選択をしたりするのは、そういうところからなんですよね。ヒーローなら『みんなを救う!』って後先考えずに言えばいいんだけど、上に立って統治して民を守るためには、何かを切り捨てなきゃいけないときもある。
王様戦隊が、ラクレスが死ぬことを許さないっていうのは、すごく筋が通っているなと思ったんですよね。助けるのではなくて、誰も差別なく救った上で、ちゃんと人として裁いて、死よりも重い罰を与える。彼をヒーローにしちゃうと、この作品のテーマとしても崩れるような気がしたし、その方が前向きだと思ったんです。
ぶっちゃけラクレスを描き切るまでは死ねないと思いながら、万が一他の誰かが脚本に入るとしても、ラクレスの部分だけは俺が書かないとダメだって気持ちで書いていましたね。企画書の段階から決めた、全体を通しての大きな仕掛けでもあったし、1話からコツコツ積み上げてきたものだったんで。行き当たりばったりではなく、常に二重の意味を持たせながら書いたので、大変でしたけど、書ききれて感無量でしたね。
矢野さんもご自身で考えながら細かい演技をしてくれました。是非、もう1回見直してほしいですね。僕は全部知った上でラクレスの演技を見ているんですけど、1個もズレた演技してないですから」
あと一番大きい気づきは、4~5人家族のご意見。見ている場所が全員違うんですよ。お兄ちゃんはロボ戦と戦闘シーンが好きで、自分も手を振り回して見ている。でもお話の場面は飽きちゃうのか見ていない。次女はアクションシーンは怖くて見れないけど、ヒメノ様が出てくるとテレビの前にやってくる。で、一番ちっちゃい子は、内容はわからないけどオープニングのときだけ踊る。お母さんはジェラミーが登場するといつも泣いていて、お父さんはヤンマ(渡辺碧斗)が好き、みたいな。
自分の方向性として決めたのは、とにかく広げること。意外と子供は好きなシーンが1個でもあれば見てくれる。全部をかじりつきで見るわけじゃないけど、戦いが好きだから見る、ヒメノ様が好きだから見る。大人と違って好きな瞬間があれば見てくれる。だから、いろんな人の“好き”を全部しっかり入れようと」
「子供から大人まで楽しめるものを作りたい」
『キングオージャー』は執筆当初の段階から「明るく楽しいものにしよう」というのをスローガンとして掲げていたというように、重いテーマを扱っていても、健康的でポジティブなのが魅力だ。一方、高野自身は「ジメジメした陰湿な人間」だそうで、「子供向けの番組なんだけど、見ると、眼帯つけて左腕に包帯を巻いちゃう子供が日本中に増えるような作品も作ってみたいです」などと笑いつつ、今後も子供に向けたドラマを書いていきたいと言う。
「『キングオージャー』って『子供に分かるの?』『大人向けじゃないか』って言われるんですけど、そもそも『子供向けって何?』って思うんですよ。たぶん、誰も言語化できないし、大抵それって、大人が言うんですよね。
僕が小さい頃は、やっぱり大人が見ているものを見たいと思ったし、子供が見ているものをバカにしていました。だって今一番ヒットしているのが『鬼滅の刃』で幼い子たちが炭治郎の法被を着て走り回っている。あの作品ってめっちゃ首飛ぶし、壮絶な話じゃないですか。描写だけで考えれば子供向けとかじゃない気がするんですよね。だから子供が本当に喜ぶものって、子供に向けることだけ考えて作っても、たぶん届かないと思うんです。
僕の家は、小さい頃はテレビとかゲームは基本禁止でしたけど、母親が近所の子供向けに本を貸し出していたんです。絵本や児童文学だけで2000冊くらいあって、父親はマンガ好きでマンガ部屋があって、僕はそこを行き来して片っ端から読みました。
子供が触れるものって基本的に親に管理されるんですよね。それが悪いかって言うとそうとは言い切れない。だって、自分も父親が『クウガ』や『555』を見たいって言って一緒に見てカッコいいなって思ったし。だから、子供だけに刺さるんじゃなくて、大人も面白いと思えて、これだったら子供と一緒に見たいなって思えるものを作りたいですね。
結局、締めの言葉が『子供から大人まで楽しめるものを作りたい』っていうチープな言葉に落ち着いちゃいましたけど(笑)」
【プロフィール】高野水登(たかの・みなと)/脚本家。1993年生まれ。主な担当作品は『真犯人フラグ』(日本テレビ)、『TIGER&BUNNY2』(Netflix)、『映像研には手を出すな!』(MBS・TBS)、『賭ケグルイ』(MBS・TBS)、『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日)など。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)など。
撮影/槇野翔太
『王様戦隊キングオージャー』の最終回は 2月25日(日)午前9:30から(テレビ朝日系)にて放送 |
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